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森永卓郎さんのちょっと賢い年金生活
- 退職金課税を考える 2023.08.30
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政府税制調査会が、長期勤続者の退職金課税強化を打ち出しました。岸田総理は、「サラリーマン増税は考えていない」と否定していますが、退職金増税は実施されるのではないかと、私は考えています。それは来年度予算編成の基本方針となる「骨太の方針」にすでに織り込まれているからです。
退職金増税の表向きの理由は、長期勤続者を優遇する現行税制は、労働者の円滑な労働移動を阻害しているというものです。現行の退職金課税では、退職金額から退職所得控除を差し引いた額の半額を課税所得(2分の1軽課)としています。退職所得控除は、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円となっています。例えば勤続40年の場合は、40万円×20年+70万円×20年で、2200万円が退職所得控除となります。厚生労働省の統計によると、定年退職の場合、大卒でも平均支給額は2280万円ですから、大部分のサラリーマンは、退職所得控除で所得がゼロになり、税金は課せられません。政府は、こうした長期勤続者の税制優遇を問題視して、退職所得控除の圧縮を狙っているのです。
ただ、退職金というのは定年後の生活を支える資金の柱になっているので、安易に増税をされても困ります。私はどうしても税収を増やしたいのであれば、見直すべきは2分の1軽課のほうだと思います。というのも、この制度が悪用されているからです。高額報酬で知られる外資系金融機関の社員は、入社時に報酬の半分を年俸で、残りの半分を退職金で受け取るといった契約をします。総報酬が年2億円だとすると、毎年1億円を退職金に積み立てるのです。10年後に会社を辞める時には、退職金が10億円にもなります。そのとき2分の1軽課のおかげで、そのうち5億円は無税でまるまる懐に入るのです。つまり2分の1軽課は、超富裕層を優遇する制度になっています。退職金課税では、まずそこを見直すことが優先課題ではないでしょうか。