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森永卓郎さんのちょっと賢い年金生活
- 【第20回】ゆったり時間を過ごす 2013.11.20
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JR九州の豪華寝台列車、ななつ星の運行が始まりました。最も高価な「DXスイートA」が、3泊4日で1人当たり56万6千円もするのに、チケットが抽選になるほどの人気を集めています。鉄道マニアだけでなく、時間にゆとりのある中高年層が増えてきたことが、こうしたビジネスを成立させる背景になっています。このため、JR各社も同様の列車を順次投入する計画を明らかにしています。私も一度は乗ってみたいと思っていますが、夫婦で百万円以上かかる列車に、そうしょっちゅう乗るわけにはいきません。
ただ、ゆったりと時間を過ごすという贅沢は、何も大金を投じないとできないというわけではないのです。
私は夏休みの最後に、学生と一緒にゼミ合宿をしています。数年前に千葉県の館山で合宿をしました。そのときは、半日の自由時間を設定していたのですが、学生がその時間を利用して近隣のレジャーランドに遊びに行こうと誘ってきました。私は断りました。仮に行っても、往復の時間が必要なので、ほとんど遊ぶ時間がありません。
不満をもらす学生に私は提案しました。目の前に海が広がっていて、すぐそこに堤防があるのだから、堤防に腰掛けて半日ボーっとしていようと。しぶしぶながら、7~8人の学生が付いてきました。
海風に吹かれながら、他愛のない話をしていると、雲が流れていきます。それに合わせて海の色が変わっていきます。沖合を貨物船や旅客船が行き交います。そして、魚群がやってくると、垂らしていた釣り糸に魚が次々にかかります。それをホテルに持ち帰って塩焼きにしてもらうと、抜群の旨さです。
学生が言いました。「こんな体験したことなかったけれど、こんな時間の使い方は、とてもいいですね」。大金を投じて、皆が行くところに出掛ける必要はありません。幸せは、ゆったり過ごすだけで、もたらされるのです。
■森永卓郎
1957年東京生まれ。 経済アナリスト。東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)、経済企画庁、民間シンクタンクなどを経て、獨協大学経済学部教授に。多数の著書を手掛け、「年金は60歳からもらえ」(光文社)を監修。ペットボトルの蓋などB級グッズコレクターでもある。