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森永卓郎さんのちょっと賢い年金生活
- 【第11回】アベノミクスと老後生活 2013.06.10
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安倍総理が景気回復のために打ち出したアベノミクスが注目を集めています。特に、大胆な金融緩和を実施して、物価上昇率を2%まで引き上げるインフレターゲット政策は、経済に大きな影響を与えます。野田元総理が解散総選挙を打ち出して、安倍政権の発足が見込まれるようになってからたった2ヶ月で、対ドル為替は10円の円安になり、日経平均株価は2千円以上値上がりしました。
2%の物価上昇が本当に実現できるかどうかは、まだ分かりませんが、本当に実現したら、老後生活はどのようになるのでしょうか。
金融緩和の影響は、円安となって現れます。2%の物価上昇率を達成しようと思ったら、1ドル=120円程度の為替が必要です。昨年の1ドル80円と比べると、輸入品の価格が1・5倍になる水準です。円安は、すぐに輸入品の比率が高い商品の物価を引き上げます。石油や小麦粉などの穀物です。さらに、中国などで作られている安価な雑貨や衣料品などの日用品も値上がりします。そして、少しタイムラグを置いて電気料金が上がり、国産の肉類も値上がりします。石油で電力を作り、家畜は輸入飼料を食べて育っているからです。
値上がりするのは、生活必需品ばかりですから、物価上昇は庶民の生活を直撃します。それだけではありません。物価が上がっても年金は改善されません。物価スライド(※1)の未実施分が2・5%、マクロ経済スライド(※2)の未実施分が7・2%もあるからです。今後、累積で物価が10%上昇するまでは、年金は据え置きというのが、いまの年金制度のルールです。政治的な救済があるかもしれませんが、基本的には、老後生活が物価上昇の影響を受けて厳しくなることを覚悟しておいたほうがよさそうです。
物価高は、基本的には節約で乗り切るしかありませんが、デフレを脱却すれば、株価は急上昇しますから、節約で生まれた余裕資金を株式投資に回すというのも、老後を乗り切るための一つの手かもしれません。
※1 物価変動にあわせて年金額を改定する仕組み。
※2 毎年0・9%ずつ年金給付額を減らす仕組み。インフレ時のみ発動。2005年から実施される計画だったが、8年分(7・2%)の削減が先送りに。
■森永卓郎
1957年東京生まれ。 経済アナリスト。東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)、経済企画庁、民間シンクタンクなどを経て、獨協大学経済学部教授に。多数の著書を手掛け、「年金は60歳からもらえ」(光文社)を監修。ペットボトルの蓋などB級グッズコレクターでもある。