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一期一筆
- キャンセルカルチャー 2023.04.18
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人間の本性なのだろうか。人はリスクを負わない匿名の陰に隠れると、限りなく残酷になる。妬み心と日頃の鬱憤を〝正義〟でまぶし、匿名で著名人の過去の言動などをSNS上で取り上げて糾弾、社会的に葬り去ろうとするキャンセルカルチャーもその一つだろう。
一昨年の東京五輪。開会式直前の騒動は、典型的な事例だった。楽曲を担当するミュージシャンの辞任は小学生時代のいじめ行為。演出担当の劇作家は、過去にホロコーストをギャグにしていたとして解任され、参加を予定していた俳優も過去に障がい者を揶揄するコントを演じていたことで辞退に追い込まれた。いずれもネット空間で炎上、集中砲火を浴びた。
人間の脳は、自分より優れたり、恵まれている者を引きずり降ろすと快感を感じるように進化の過程でセットされてきたという。恐らく匿名投稿者の脳も著名人の過去の言動の傷にピラニアの如く残酷に襲い掛かることで、己の快感を満たしているのであろう。
ネットニュースで最も多くアクセスを集めるのは、芸能人と社会正義の話題だという。SNSで不道徳な行いをした者が餌食になるのは、スマホの登場で正義がお手軽な娯楽になったためと分析する識者もいる。
寝転んでスマホをいじり、妬み心は正義でまぶす。罵詈雑言を浴びる者は自業自得。〝正義の鉄槌〟を下すのは社会のため、と自分の行為を正当化する。ネット炎上の実相である。鉄槌を下すべき相手がいる。国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出したプーチン露大統領である。匿名投稿者の快感を存分に満たす娯楽になるはずである。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)