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芸能人インタビュー
- 分断が広がるこの世界で、言葉の力を信じる気持ちだけは捨てたくないんです 2025.02.17
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シアタートラムでは現在、イギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスによる2作品が同時上演されています。都市生活者の孤独を描いた『ポルノグラフィ』と、大晦日の混乱を描いた『レイジ』。竹下景子さんは両作品で全く異なる二役を演じられています。
演劇界注目の衝撃作に、11人の個性豊かな実力派俳優が挑む
「映画なら2本立てですが、演劇はダブルビルと言うんですね」
立て続けの取材にも疲れを見せず、朗らかな笑顔で話す竹下景子さん。出演中の舞台『ポルノグラフィ/レイジ』では、同じ演出家と出演者による同時上演(ダブルビル)に初挑戦されています。
第一幕の『ポルノグラフィ』は、2005年にロンドンで発生した連続爆破テロ事件が題材。被害者やその周辺の人々、そして爆破事件の実行犯など、さまざまな人物の日常生活を7つのオムニバス形式で描きます。
「こういうことは今や他人事ではありませんし、どちらの側に自分が立つことになるか分からない緊張感がありますよね。そういった意味では、すごく現実味のある話として読むことができました。日常風景の描写も細やかで、知らない世界なのに目の前に絵が浮かんでくるような、そんな印象がある戯曲です。
私が演じるのは83歳のおばあさん。本人は多分おばあさんという意識は持ってはいないと思いますが、紛れもなく83歳の女性の日常がリアルに描かれています。時間の感覚がちょっと覚束なくなるとか、食事したかどうか分からなくなるとかね。でも、そういうことも受け止めつつ、ひとりで生きていこうとする強さが私は好きです。それと、登場人物たちは少なからずみんな孤独を抱えている訳ですが、その中でフッと思いがけない人との触れ合いがあった時、ワッと気持ちが溢れて涙が流れる所も大好き。ああ分かるなあって。そういうキラッとした瞬間がある作品ですね。切ないとも言えるかもしれませんが」
第二幕の『レイジ』は、イギリス主要都市の大晦日の様子を捉えた群像劇。狂乱を繰り広げる市民と、取り締まりの名の下に行われる警察の蛮行…。現代社会の縮図を描き、糾弾するような衝撃作です。
「大晦日という、ある限られた時間の中での高揚感や緊張感、または爆発してしまうような気持ちを描いた、ちょっと不思議な作品ですね。演じる役も『世界のその下が見える女』というこれまた面白いキャラクターで、歌うシーンもあるんですよ。第一幕の『ポルノグラフィ』は、ほぼ一人芝居のような短編が並ぶオムニバスですが、『レイジ』は他の方との絡みがあるので、それも楽しみです」ヒリヒリするような戯曲の奥に感じた溢れんばかりの愛
孤独感や閉塞感が漂う『ポルノグラフィ/レイジ』。その混沌とした世界観は絶望すら感じさせますが、奥深くにあるのは、作者であるサイモン・スティーヴンスの溢れんばかりの愛であると竹下さんは語ります。
「『ポルノグラフィ』の冒頭にサイモンさんの言葉に対する思いが書いてあるんです。『私たちの言葉は死んでしまった、でもこれから血を通わせ命を与えよう』って。演劇というのは言葉を介して思いを届けるものですが、それ以前に、分断や不寛容さが広がるこの世界を少しでも良くしていくためには、やっぱり言葉しかないんじゃないかって気持ちにさせられたんです。もちろん、相手の言ったことを言葉通りに受け取っていいのか分からなかったり、自分の気持ちが届かないこともあるでしょう。SNSが普及した現代では、以前とは比べ物にならない程いろいろな神経を働かせて、みんな生活していると思います。でも、そういう状況を一旦踏まえた上で、それでも私は言葉の力を信じたいし、言葉があれば繋がっていけるはず。この気持ちだけは捨てたくないんですよね」■ヘアメイク:徳田郁子 スタイリスト:田中舞
■プロフィール
俳優/竹下 景子
1953年愛知県出身。NHK『中学生群像』出演を経て、1973年にNHK銀河テレビ小説『波の塔』で本格デビュー。映画『男はつらいよ』のマドンナ役を3度務め、93年公開の映画『学校』では第17回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞する。近年は舞台にも数多く出演しており、昨年だけでも『まるは食堂2024』『Silent Sky』など4作に出演。
■インフォメーション
サイモン・スティーヴンス ダブルビル
『ポルノグラフィ/レイジ 』
作/サイモン・スティーヴンス演出/桐山知也
出演/亀田佳明、土井ケイト、岡本玲、sara、田中亨、竹下景子 他
日程/上演中~3月2日(日)
会場/シアタートラム
料金(全席指定・税込)/一般:8,000円
【問】世田谷パブリックシアターケットセンター
03-5432-1515(10:00~19:00)
●宣伝美術:秋澤一彰 宣伝写真:山崎伸康