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楽譜から作曲者の想いを読み解き、棒一本で伝える。それが指揮者の最も大切な仕事です 2024.08.26
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 クラシック界の至宝と呼ばれながらも、それを感じさせない柔和な雰囲気で取材に応じる秋山和慶さん。今年、指揮者生活60周年を迎え、9月21日にはサントリーホールで記念演奏会も行われます。そんな秋山さんに、指揮者になるきっかけや、師との思い出などを伺いました。

 

つねに第一線を走り続けたマエストロの60年の軌跡

 3歳からピアノを習い、クラシックの演奏会にも足を運ぶなど、幼い頃から音楽に親しんできた秋山和慶さん。しかし音楽家になるつもりは全くなく、将来は鉄道関係の仕事をしたいと願っていました。そんな秋山さんに転機が訪れたのは14歳の時。たまたま聴きに行った桐朋学園の演奏会で、当時大学生の小澤征爾さん率いる学生オーケストラに心を鷲掴みにされたのです。
 「同年代、あるいはもっと小さな子がやっているのに、今まで聴いていたプロより音が綺麗に感じたし、アンサンブルも緻密。これはすごいなと。毛が立つ思いとは、ああいいうことを言うのでしょうね」
 太鼓でもラッパでも何でもいいから関わりたい。そう思い楽屋を訪ねると、小澤さんは師匠である齋藤秀雄先生の元に秋山さんを連れて行き、なぜか指揮者志望だと紹介。否定する間もなく、話がどんどん進んでしまいます。
 「齋藤先生のことは厳格で怖い人だと聞いていたものだから、小澤さんが『こいつ指揮やりたいんだって』と言った時は一瞬ゾッとしてね(笑)。どうやって逃げ出そうかと思ったくらい。確かにレッスンは厳しかったですよ。言われた通りできないと、こっぴどく怒られるし。でもレッスンが終われば『晩飯行こう』って和気藹々。新宿や渋谷でご馳走になってばかりでした」
 その後、23歳の若さで東京交響楽団を指揮してデビューするも、僅か1か月半後に同楽団が経営破綻。秋山さんらはスポンサー無しの自主運営を余儀なくされます。
 「当時の常任指揮者が引責辞任し、指揮者は私一人。ありったけの仕事を取ってきて、毎日が練習と本番の繰り返しでした。それでも給料が払えないから、楽団の公衆電話を開けて皆で10円ずつ分けたりね。コッペパンが一つ5円の時代です。当然辞めていく人もいました。でも私の親より上の世代もまだ残っていたわけで、そういう人たちが本当に結束して頑張っている中、自分だけイチ抜けた、なんてできませんよ」

 師から弟子へと受け継がれる、指揮者としてのあるべき姿

 16年後に東響は無事再建を果たしますが、その間秋山さんは世界の名だたる楽団で指揮を務め、その水準を肌で実感。以来、日本の演奏レベルを高めるべく後進の育成にも尽力し、今や数多くの弟子が国内外で活躍しています。
 「弟子やオーケストラに対して私が肝に銘じているのは、絶対に怒らないということ。これは齋藤先生の遺言でね。先生が亡くなる前日、病室に駆け付けた弟子たちに仰ったことなんです。『自分が怒ってばかりいたのは教えるだけの引き出しが無かったせい。だから君たちは勉強していろんな引き出しを持て。そして怒らず正確に教えられるのが一番良い』と。私の胸にいつもある戒めの言葉です」
 また、良い指揮者には優れた音楽性も必要だと秋山さんは語ります。
 「オーケストラもプロですから、指揮者がちゃんと音楽を理解して棒一本で伝えようとしているのか、それとも格好だけなのか、すぐ見抜きます。だからこそ指揮者は誰よりも真摯に音楽と向き合い、楽譜の中に隠された作曲者の想いを汲む能力を養わなくてはいけない。役者さんが台本を読み込むってよく言うけど、それと同じじゃないかな。音楽だって、音を並べただけじゃ駄目なんです」
 富や名声には目もくれず、ただひたすら良い音楽を求め、届け続ける秋山さん。今年指揮者生活60周年を迎えましたが、その目はすでに次の10年を見つめています。
 「朝比奈隆先生は93まで振っていらしたから、私も70周年が迎えられるように…まずはそこを目指したいですね」

 

■プロフィール

指揮者/秋山和慶

1941年東京都出身。齋藤秀雄に師事し、1963年に桐朋学園大学音楽学部を卒業。64年に東京交響楽団で指揮者デビューし、同団の音楽監督・常任指揮者を40年間にわたり務める。その間、バンクーバー響、アメリカ響の音楽監督を歴任。2001年に紫綬褒章、2011年に旭日小綬章を受章。2014年文化功労者に選出。2024年は指揮者生活60周年を迎えた。

 

■インフォメーション

東京交響楽団

「秋山和慶 指揮者生活60周年記念」

出演/秋山和慶(指揮) 竹澤恭子(ヴァイオリン) 

曲目/ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」、

ブルックナー:交響曲 第4番「ロマンティック」 

日程/9月21日(土) 

会場/サントリーホール 

料金(全席指定・税込)/S席7,500円、A席6,500円、B席5,500円 他

【問】TOKYO SYMPHONY チケットセンター 

044-520-1511(平日10:00~18:00)


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