83年のデビュー以来、国内だけでなく海外の映画作品にも出演している永瀬正敏さん。一歩ずつキャリアと年齢を重ね、俳優としての存在感は増すばかりです。３月31日から公開される映画『GOLDFISH』について、そして映画への思いをお聞きしました。

新人監督の勇気に感銘、世代を問わずハッとさせられる最新作語

　「ションベン・ライダーというデビュー映画がクランクアップした日、この場所から離れたくないと思いました。それが運の尽きです（笑）」
　あの日から40年。巨匠から若手の監督らと映画を作り、心が動けば学生映画などにも出演してきました。
　「撮影にボランティアで参加していた若い女の子に『私も映画を撮りたいので出てもらえないですか』と声をかけられました。何を撮りたいのか尋ねると『自分を題材にした母と娘の映画』って。どんな風に描くか観たいと思いました。そういう熱意は応援したいし、僕も新しい感性から刺激を受けたい。ベテランの監督からもっと多くを教わりたいですし、うーん…欲張りなんですかね」
　３月31日公開の最新作『GOLDFISH』でも新たな出会いがありました。80年代にデビューしたパンクバンドの亜無亜危異のメンバーで本作で初めてメガホンをとった藤沼伸一さんです。
　「僕が音楽に出会った中学の頃、デビューしたのが亜無亜危異。この映画はメンバーの藤沼監督が自分たちのバンドを題材にし、デビューから挫折、苦悩を半自伝的に描いています。長年のファンもいるから、自らを映画にするのは腹を括らないとできないこと。何を言われようが、すべてを受け止めるという監督の勇気に感銘を受けました」
　80年代に社会現象を起こしたパンクバンド「ガンズ」（亜無亜危異がモチーフ）。全盛期にメンバーのハル（山岸健太）の傷害事件により活動休止。30年後、借金で首が回らないアニマル（渋川清彦）が再結成を呼び掛け、イチ（永瀬正敏）を中心に復活ライブへ向けて動き出すが、その先に待っていたものとは…。
　永瀬さんが演じたイチは藤沼監督がモチーフです。バンドから離れた今も、音楽でなんとか生計を立てているものの、食事はもっぱらレトルトカレー、実の娘に養育費をたかられる始末。人生半ばを過ぎ、過去の栄光と現実の隔たりの中で募る燻ぶった思い。音楽を題材にしながら、人生を折り返した人が抱える悩みも描きます。
　「苦しみの波のなかを泳ぐ金魚（GOLDFISH）になぞらえながら、人や社会との付き合い方などのテーマが散りばめられています。世代や性別を問わず、思わずハッとさせられるメッセージがあるはずです」

 演じたいのは「次にオファーをいただいた役」

　かつては俳優ではなくロックスターに憧れたという永瀬さん。名優の演技を目の当たりにし、俳優として自分の進む道を模索し、今や国内外で活躍する国際的な俳優となりました。
　「三國（連太郎）さんは懐が広く、受けがすごかった。だから現場で三國さんと同じくらい演技できてるんじゃないかと思ってしまう。できあがった作品を観ると、背を向け、セリフひとつを言うだけで空気を変える…とても足元に及ばない存在でした。
　（樹木）希林さんは、どんなシーンでも決して自分の手柄にせず、常に共演相手をよく見せていました。本当にできないことですし、役者としての目標が見えた気がしました」
　多くのことを学び、自分を生んでくれた場所だと話す映画には特別な思いがあります。
　「どんなときも映画を信じていました。自分が出ていても、観ていても、一度も映画に裏切られたことがないから。取材で『やりたい役は？』と聞かれることがありますが、いつも『次にオファーをいただいた役』と答えています。俳優の仕事は個人プレーでは成り立ちません。スタッフが照明を当ててくれ、これからも一緒にやりたいと監督に思われる俳優でいたい」

■プロフィール

俳優／永瀬正敏

1966年宮崎県出身。映画『ションベン・ライダー』（83）でデビューし、『息子』（91）で日本アカデミー賞新人俳優賞・最優秀助演男優賞などに輝く。海外作品にも多数出演し、カンヌ国際映画祭・最優秀芸術貢献賞『ミステリー・トレイン』（89）のほか、台湾映画『KANO』（15）で金馬奨で中華圏以外の俳優で初めて主演男優賞にノミネート。『あん』（15）、『パターソン』（16）、『光』（17）でカンヌ国際映画祭に３年連続公式選出された初のアジア人俳優になった。

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■インフォメーション

「GOLDFISH」

シネマート新宿他で３月31日㈮から全国順次公開

■出演：永瀬正敏
北村有起哉　渋川清彦／
町田康／有森也実 他
■監督：藤沼伸一