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芸能人インタビュー
- 自然の変化を心に留めることで、人間って案外、幸せになれるものです 2022.10.17
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テレビでの親しみやすい話し口が印象的な土井善晴さん。いつも快活な印象ですが「疲れていても市場に行くと元気になります。食材は自然とつながっているから、食材を見ているとパワーをもらえます」と話します。今秋公開の『土を喰らう十二ヵ月』で料理監修を務めました。
一汁一菜が広く支持
昨日の自分ではなく、今日の自分が頼り
一膳のご飯、具のたくさん入った味噌汁、漬け物があれば、それが立派な食事になるという「一汁一菜」。この考えが、日々の献立作りに頭を悩ませる人々に支持されている土井善晴さん。料理研究家として、長年に渡り食の在り方を追求してきました。そんな土井さんが心がけていることがあります。「ずっと予定調和を嫌ってきました。料理研究家としても、昨日の自分に頼らないようにしています。だから自分の作ったレシピさえも頼らない。昔の自分が作った料理は、もうすでに過去のもの。今日の自分が作った料理でないとイキイキとしませんから」
沢田研二さん主演の映画で初めて料理監修を担当
テレビやレシピ集を通し、これまで料理の魅力や向き合い方を発信してきた土井さんですが、初めて料理監修を務めた映画が公開されます。それが作家・水上勉氏が禅寺で精進料理の作り方を教わった記憶を辿り、料理について綴ったエッセイが原案となった『土を喰らう十二ヵ月』(11月11日公開)です。
「多くの現代人が忘れているのはあたりまえの大事です。自然とともにあった日本の暮らしの料理を柱にした映画を私は知らなかったし、中江監督の情熱を知るうちにやってみようと思いました」
映画で登場するのは「ほうれん草の胡麻和え」「胡麻豆腐」「若竹煮」といった一般的な家庭料理ばかりです。これらは土井さんの指導のもと、主役のツトムを務めた沢田研二さんが実際に調理にあたりました。野菜の瑞々しさはもちろん、食欲をそそる香りまでが伝わってくるようです。
「沢田さんは私より年齢が少し上だと思っていましたが、九つも上なんですね。でも、同じ時代を生きてきたと思っています。現場では沢田研二ではなく常にツトムがいました。この映画は自然の移ろいに沿って最低でも一年をかけるということで始まりました。畑づくりから始め、その季節その土地にあるもので料理する山の暮らしです。料理も自然ですから、人間の都合で撮影しない、だから、一度しか作らない。その瞬間をワンカットで撮影するのです。そういう緊張感のある撮影進行の中、ツトムを中心に全てが動く、全員の心が一つになる現場は、すばらしい経験でした」
映画の舞台は自然豊かな信州。そこで丁寧な暮らしを送るツトム、時々東京から訪れる担当編集者で恋人の真知子(松たか子さん)と共に食卓を囲みます。日本の原風景を思わせる美しい自然がゆっくりとスクリーンに映し出され、丁寧な暮らしとは何か、そして幸せとは何かを観客に問いかけてくるようです。
「都会の生活では、時計の時間が中心で人間がそれに合わせて頑張るという暮らしですが、本来、人間の方が自然に合わせるのが当たり前です。人間は自然の一部なんですね。そう思えると、時間にあるものは、その時にしかないもの。すると自然が全く違って見えてくるのです。自然の変化を心にしっかり留めることで、人間って、案外幸せになれるものだと思います。食事とは食べるだけじゃないんです。料理して食べるという小さなことを大事にすると、大きなものが動くように思います」■プロフィール
料理研究家/土井善晴
1957年大阪府生まれ。「おいしいもの研究所」代表。スイス、フランスでフランス料理、大阪味吉兆で日本料理を学ぶ。土井勝料理学校講師を経て1993年独立。十文字学園女子大学教授、東京大学先端科学研究センター客員研究員。テレビ朝日おかずのクッキング講師を36年間務める。2016年「一汁一菜でよいという提案」(新潮社)が33万部のベストセラー、近著に「一汁一菜でよいと至るまで」(新潮社新書)
■インフォメーション
『土を喰らう十二ヵ月』
11 月 11 日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他で全国公開
■出演:沢田研二、松たか子/西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八/檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子
■監督・脚本:中江裕司
■原案:水上勉
■料理:土井善晴