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芸能人インタビュー
- 古き良き時代の空気を 芝居を通して伝えることは 新派の使命だと思っています 2021.10.18
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創始130年を超える劇団新派では、現在、花柳章太郎 追悼と銘打ち特別公演が上演中です。演目は花柳氏にゆかりのある『小梅と一重』と『太夫さん』の2本立て。今回は、『小梅と一重』で一重を演じられている水谷八重子さんにお話を伺いました。
花柳章太郎を偲ぶ特別公演。時代の空気を纏って演じたい
大正から昭和にかけて活躍した女方の名手・花柳章太郎。新派の伝統的な女方芸を踏襲しながらも、独自の芸風を確立させ人気を博し、初代・水谷八重子とのコンビは絶妙と謳われました。水谷さんにとっては同じ劇団の大先輩にあたる人物ですが、思い出すのは優しくしてもらった記憶ばかりだと仰います。
「私にとって花柳先生は“優しいおじちゃま”です。教えたり叱ったりしてくださったことはないの。ただただ甘やかしてくださった。女のお子様がいらっしゃらなかったからかもしれませんね。役者としては…ものすごく正直な方という印象です。だいたい役者っていうのは自分がした工夫をお客様に隠しておくものなのですが、花柳先生は全部正直にお客様の前でやってみせちゃうんです。例えば泣く芝居をやるときに、掛けていたショールで泣いて、それからハンカチを出して泣いて、さらに持っていた風呂敷でも泣いてと、とにかく色々なものを使っておやりになった。一方で隠す代表がうちの母で。『女方は女に見えるような技巧をこらして、それをお客様に見せる。でも女優は悲しみや苦しみを隠して魅せるんだ』ということをよく言ってましたね。私ですか? 私は花柳流(笑)。やっぱり思ったことを全部やっちゃう。お客様に伝えたいという思いが先に立ってしまいますね。それで母とも衝突していたのですが…。
今回やらせていただく一重(ひとえ)は、小梅(こうめ)という生き方がめちゃくちゃな芸者を諫めて大人しくさせる役だから、隠し過ぎて小梅に負けてもいけないし、あまり興奮してもいけない。そのあたりのバランスが難しいですね。また、もう一つ難しいのは、長いお芝居のひと場面をご覧いただくということです。昔の新派は長い作品のひと場面を上演し、お楽しみいただくことが多くありましたが、『小梅と一重』も『仮名屋小梅』という大正時代の作品の一幕。なので、『太夫さん』というリアルな大作の前に昔の芝居の楽しさ、雰囲気、音に触れていただき、観終わった後に、この芝居ってどんな芝居なんだろう、全部観たいな、良い雰囲気だったなってお客様に思っていただけたらいいですね」日本の情緒や風情を伝え遺す『劇団新派』
「古き良き日本の美しさを大切に表現していきたい」。“おじちゃま”やお母様の話をするときとは打って変わって、真剣な眼差しで劇団新派が担う使命について語る水谷さん。そこには、たくさんのモノに溢れ、便利になった今だからこそ次世代に伝え遺していきたい、日本人の心の原風景がありました。
「私が新派に入ったときは先輩方が明治・大正の香りを体に持って舞台に出てらしたから、私が全くの現代っ子でも周りが時代を作ってくれていました。今度は私たちがその人たちから教えてもらった時代を大切にしていかなければと思っています。例えば、糸の切れ端が落ちていたら、ポイっと捨てずに大事に丸めて針箱の中にしまうとか、ちり紙をきちんと畳んで袂に入れるとか。そういう明治・大正・昭和の日本人の細やかさを芝居の中にそれとなく織り交ぜて伝えていく。日本文化の故郷を残していくと言うのでしょうか。そういう劇団でありたいですね」■プロフィール
女優/水谷 八重子
1939年東京都出身。父は歌舞伎俳優の14代目守田勘彌、母は新派の名女優・初代水谷八重子。1955年、歌舞伎座の新派公演にて水谷良重の名で初舞台を踏む。1995年には二代目水谷八重子を襲名し、劇団を牽引する女優として活躍するほか、朗読劇『大つごもり』の主催や音楽活動にも積極的に取り組んでいる。13年に紫綬褒章、21年に旭日小授章受章。
■インフォメーション
花柳章太郎 追悼
「十月新派特別公演」
演目/一、小梅と一重 二、太夫さん
出演/水谷八重子 波乃久里子 ほか
会場/新橋演舞場 日程/10月25日(月)まで
料金(全席指定・税込)/1等:13,000円 2等:9,000円
3階A:5,000円 3階B:3,000円 桟敷:14,000円
【問】チケットホン松竹 0570-000-489 (10:00~17:00)※年末年始除く