55年にスクリーンデビューし、日活の看板女優と人気を集め、現在も一線で活躍する浅丘ルリ子さん。数ある出演作で思い入れの強い映画が『男はつらいよ』。マドンナでは最多５作に出演し、最新作『男はつらいよ　お帰り 寅さん』（12月27日公開）で、あのリリーが帰ってきます。

22年ぶりにスクリーンに帰ってきた『男はつらいよ』

　64年に渡り、女性の可憐さや妖艶さ、愛憎を見事に演じてきた女優・浅丘ルリ子さん。映画『男はつらいよ』で演じた自由奔放に生きるリリーは、寅さんが最も愛したマドンナとしてファンから圧倒的な支持を集める存在。浅丘さん自身も特別な思いを抱いています。

　「威勢よく啖呵を切ったかと思えば、女性らしく控え目で恥じらう一面もあるリリーさん。こんなにも私の感性に合った役はありません。これまで演じた役のなかでリリーさんが一番好きなの」 　当時を振り返りながら、リリーのように表情を弾ませて話す浅丘さん。シリーズ誕生から50年を記念した最新作『男はつらいよ　お帰り 寅さん』（12月27日公開）の製作が決まったとき、うれしさだけでなく長年の思いが成就したような感情がこみ上げました。 　「心のどこかでリリーさんをまた演じられる日が必ず来るって信じていました」

　小説家となった満男（吉岡秀隆）。駆け出しながら最新作が好調ですが、なぜか次回作の執筆には乗り気になれません。娘との二人暮らしを送る満男の夢に初恋の人・イズミ（後藤久美子）が現れて…。そんなある日、妻の七回忌の法要で実家を訪れ、母・さくら（倍賞千恵子）、父・博（前田吟）らと寅次郎（渥美清）との楽しかった思い出を語りはじめる─。 　22年ぶりにスクリーンに帰ってきた車家や柴又の面々、そしてシンガーとして全国を巡っていたリリーはジャズ喫茶のママとして登場。長らくリリーを演じることから遠ざかっていた浅丘さんですが、戸惑いは一切ありませんでした。

　「今回演じるにあたり、実は監督と電話で相談いたしました。リリーさんならきっとこう話すのではと思う台詞があったからです。たいへんな時間と労力をかけて台本を作られたと思いますが、監督は私の申し出を快く受け入れてくださいました。身に着けた真っ赤な衣装、アクセサリーも私のアイデア。その姿を見た監督はおもむろに私を抱きしめ、『リリーさんは全然お変わりになっていませんね』と仰ってくれました。そうしたら、ちーちゃん（倍賞千恵子）が私にもって（笑）」 　満男を中心に描かれた新たな物語、そして４Ｋデジタル修復により甦った寅さんはスクリーンにどう映し出されるのか─。完成した映画を監督らと一緒に観終え、浅丘さんの胸に去来したのは感動でした。 　「映画の試写室が、あれほどの感動に包まれたことは記憶にありません。それに本当に素敵なラストシーンなの。お馴染みのオープニング『男はつらいよ』を桑田（佳祐）さんにうたっていただいたのも驚きでした。観終えたとき、今度は私が監督を抱きしめました」

　渥美清さんが逝去して23年が過ぎましたが、映画の中の寅さんは今もどこかを放浪しています。80年公開の『男はつらいよ　寅次郎ハイビスカスの花』では、奄美大島で同居して互いに惹かれ合ったものの、結局はすれ違いで別離を迎えたふたり。寅さんにもう一度出会うことが叶うのなら、リリーはどんな言葉をかけるのでしょうか。 　「『奄美大島で楽しく暮らした、あの日の続きをしましょう』。きっと、そう言うんじゃないでしょうか」

　50年という歳月をかけ、共演者だけでなく日本人の心に確かに息づいた寅さん。人情味あふれる笑顔、乱雑だけれど粋で心にしみる言葉は、これから先も私たちの心にそっと寄り添っていくことでしょう。

■プロフィール

女優／浅丘ルリ子

1940年７月２日生まれ。映画『緑はるかに』（55年）でデビューし、テレビや舞台で幅広く活躍。現在、テレビ朝日系列で放送中のドラマ『やすらぎの刻～道』（テレビ朝日）でも往年の大女優・白川冴子を好演中。紫綬褒章（02年）、旭日小綬章 （11年）などを受章。

■インフォメーション

男はつらいよ お帰り 寅さん

12月27日㈮より全国公開

■監督：山田洋次

■出演：渥美清／倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子 他