繊細な役からコメディまで演じ分け、実力派女優となった夏川結衣さん。素敵な年齢の重ね方、そして飾らない性格は、同性からも支持されています。人気喜劇シリーズ『家族はつらいよ』の第三弾（山田洋次監督、５月25日公開）で三世代が暮らす一家を支える専業主婦を好演しています。

「俺が稼いだ金でへそくりか」。夫の本音で家庭崩壊の危機！

　　凛としながらも、女性らしいたおやかな眼差しが印象的な夏川結衣さん。93年に映画デビューし、女優として一歩ずつキャリアを積み重ねてきました。

　「仕事に自信がなく悩んだときは悔しさを糧にしました。『自分がやりたい役』というのは特にありません。どんな役でも、お受けしたオファーにきちんと応えたい」

　さまざまな役と真摯に向き合ってきた夏川さんが、16年から演じているのが喜劇映画『家族はつらいよ』シリーズの専業主婦・史枝。 嫁いだ平田家でひと癖ある義父やダメ夫の世話をし、三世代家族の家事に励む姿に共感を覚えるファンも少なくありませんでした。５月25日公開の最新作『妻よ薔薇のように　家族はつらいよⅢ』では、その史枝にスポットライトがあたります。 　「今作の制作が決まりそうなとき、『大変かもよ夏川さん』と釘を打たれ、『またまた～』って軽く流していました。いざ台本を見たら家出はするし、フラメンコのシーンがあったり…。これは大変な現場になると感じました」

　ある日の平田家。掃除をする史枝はうとうと居眠り。その隙に泥棒が侵入し、地道に溜めた40万円のへそくりが盗まれてしまう。自らの過ちを認め、夫・幸之助（西村まさ彦）に必死に謝るものの、返ってきたのは「俺が稼いだ金でへそくりをしていたのか！」「必死に働いているときに居眠りしやがって！」という辛らつな言葉。耐えかねた史枝は家を飛び出してしまいます。 　「台詞とはいえ、そんなひどく言わなくてもと思うほどの夫役の西村さんの嫌味（笑）。でも、これが働く男性の本音なんですって。へそくりは家計を切り詰めて作ったもの。主婦業の大変さを考えれば、それくらい当然の権利ですよね」

　史枝の家出により、食事の支度も掃除もままならない平田家。史枝が戻る気配はなく、強情っ張りな幸之助は家族に諭されても妻に謝ろうとしません。その先にあるのは離婚かそれとも─。 　夫婦愛、家族愛を笑いと涙で綴った本作。山田洋次監督がテーマとしたのは『主婦への讃歌』。専業主婦の生き方と悩みを描くため、細かなシーンの演出にもこだわっています。

　「家事のシーンで、ちゃんとアイロンがけしてくださいという指示がありました。聞けば監督はパジャマまで上手にアイロンをかけるそう…、本当に気の抜けないシーンでした（笑）。主婦の仕事の多くは夫や子どもが出かけた後。家族に見えない日々の苦労が分かってもらえます」 　『家族はつらいよ』シリーズとしては３作目（前身の『東京家族』を含めると４作目）。回を重ねるごとに〝家族〟のような雰囲気が醸成されていっています。

　「出演者同士とても仲がいいですが馴れ合わず、必要なときにだけ話す家族のような関係性。役の理解もさらに深まり、台詞も滑らかになったと思います。よりよい作品にしたいという気持ちが一作ごとに強くなっています」 　錚々たる役者が強い気持ちを持って撮影現場に臨むのは、86歳となった今も映画へ情熱を注ぐ山田監督の存在が大きいでしょう。夏川さんにとっても特別な現場だと話します。

　「監督が演出するとき、現場にいるすべてのスタッフが作業を止め、監督の一言一句に耳を傾けます。静けさのなか、監督の声だけが響く現場は経験したことがありません。役者への要求も厳しいです。でも、それは役者にきちんと向き合ってくれているから。監督の要求に応えられるよう、現場では必死に頑張りました。山田組の現場は〝学校〟とも言われますが、私も多くを学ばせていただいています」

■プロフィール

女優／夏川結衣

熊本県生まれ。93年に映画「空がこんなに青いわけがない」で女優デビューし、「歩いても　歩いても」（08年）、「孤高のメス」（10年）のほか、「家族はつらいよ」（17年）で日本アカデミー賞の優秀助演女優賞に輝く。TVドラマ「青い鳥」（06年）、「結婚できない男」（10年）で話題になる。ヘアメイク／板倉タクマ（nude.）、スタイリスト／藤井享子　ネックレス／59,000円（税抜）リング／55,000円　（税抜）　アクセサリー全てCASUCA（お問い合わせ先：03-5778-9168）　※その他全てスタイリスト私物。

■インフォメーション

妻よ薔薇のように　家族はつらいよⅢ
５月25日㈮全国公開

■監督・原作／山田洋次
■出演／橋爪功　吉行和子
　西村まさ彦　夏川結衣　
　中嶋朋子　林家正蔵
　妻夫木聡　蒼井優