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芸能人インタビュー
- 人生は日常の積み重ね。自分が面白がらなかったら、人生に面白いものなんて何にもないのよ 2016.05.16
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女優として輝くだけでなく、全身がんを告白して以来、生き方や発言に注目が集まっている樹木希林さん。「私の言葉にですか? 本人は普通のつもりなのにね」と笑う樹木さんに、人生との向き合い方、そして5月21日公開の映画『海よりもまだ深く』についてお聞きしました。
物をきちんと使い切ることができたとき幸せを感じる
波乱に満ちた人生を送り、大病を患っても女優として活躍する樹木希林さん。
「世に名を残すのも立派な活躍だけれど、自分がうれしい人生を生きるのが本当の活躍じゃないでしょうか」 他人を羨んだり、比べても仕方ないこと─樹木さんから感じられる、人生を自分で全うするという強い信念。そして、有言実行を貫く生き方が、多くの人から共感を呼ぶのでしょう。
「50歳を過ぎた頃って、あとは病気になって死ぬだけかしらなんて頭に過るのよね。人生って何でもない日常の積み重ね。だけど、同じような一日がまた繰り返されるって思うのと、新しい一日が始まるわって思うのでは、その後の人生がうんと変わってくる。自分が面白がらなかったら、人生に面白いものなんて何にもないのよ」
還暦のとき乳がんを告げられて以来、幸せは日常の中にあるというのが樹木さんの持論になりました。穏やかな表情を浮かべ、日々を丁寧に生きる大切さを語ります。 「私は整理整頓がすごく好きなんですね。物も捨てるんじゃなくて、生かしてから捨てる。たとえば靴ならすり減った底を手直しし、もう直らなくなったら処分します。きちんと使い切ることができたとき、心がスーッとするの。年を取り、慌てて生きがいを探す人もいますよね。けれど、遠い所に求めていて、なかなか見つけられないでいる気がします。身近な好きなことに、幸せが隠れているんじゃないですか」
5月21日から公開される『海よりもまだ深く』は、樹木さんが語る何もない日常を描いた映画です。阿部寛さんが演じる良多は、小説家として再起を目指すものの、ギャンブル好きで別れた妻に養育費もろくに払えず、隙をみて親の財布から金を抜き取ろうとする始末。そんな良多を温かく見守る母を樹木さんが演じています。 「じゃがいもは親芋の養分が子芋に渡り、実を成長させます。養分が抜けた親芋は萎んでしまいますが。人間も同じですよ。子どもを育てるときは、自分が滅してもいいという覚悟が親には必要。映画で演じたのは、そんな母親でした。良い演技だった? それは監督の腕。セリフ通り読めば、誰がやっても上手くいくのよ(笑)」 希林節は続きます。
「だけど、近頃はこんな母親のような人にはお目にかかれません。いくつになっても、私がって主張してね。それはそれでいいことですが、ただ子どもが陰に隠れてしまわないでしょうか。自分を滅することは、自分をなくすことではありません。人間としての成熟であり、それに女として色っぽいのよ。色気ってのは男に媚を売ることじゃなく、一歩下がって歩く、周りへ気配りができるような古風さ。その方が女として素敵じゃないかしら」 映画では、自らが絶え入る前に子どもへ何かを残そうと苦心する母の優しさが涙を誘います。誰もが経験する「思うようにならない人生」を受け入れ、一歩前へ進む姿を描いた本作。樹木さん自身は「人生、こんなはずじゃなかった」と思ったことはあるのでしょうか。
「申し訳ないんですけど、それが何にもないのね。夢見たことも、希望を持ったこともないから。いつも行き当たりばったり。強いて言うなら、55年役者をやっていることかしら(笑)」 真摯な言葉の中に、小気味よく混ざるユーモア。樹木さんの生き方を象徴しているようでした。
■プロフィール
女優/樹木 希林
1943年東京都生まれ。61年に文学座に入り、64年のテレビ『七人の孫』(TBS)の出演で人気を博し、ドラマ『寺内貫太郎一家』(TBS)へ出演して社会現象に。テレビ、映画、CMなど多方面で活躍し、昨年は主演映画『あん』が話題になった。08年紫綬褒章、14年旭日小綬章を受章。
■インフォメーション
「海よりもまだ深く」
5月21日㈯、丸の内ピカデリー他で全国公開
■原案・監督・脚本・編集 是枝裕和
■出演 阿部寛/真木よう子/ 樹木希林他