「長崎は今日も雨だった」でシンガーとして一躍注目を集めた前川清さん。聴く者を魅了する“前川節”やユニークな人柄で多くの人に愛され続け、昨年デビュー45周年目を迎えました。そんな前川さんの歌に対する思いや、新しいアルバムについてお話をうかがいました。

■歌手・前川清として立ち続ける緊張のステージ

　スッと背筋を伸ばしマイクを握る姿がスポットライトに浮かび上がる。心が浮き立つメロディと魅力的な歌声。観客は歌の世界へ導かれていく…。

　『長崎は今日も雨だった』『そして、神戸』『恋唄』『雪列車』…。 　今も一線で活躍し続ける前川清さん。心をふるわす歌には芸能界にもファンが多く、北島三郎さんは、前川さんのことを歌謡界の宝と言います。

　笑顔でファンと握手を交わし、ステージ上で歌う堂々たる姿は、まさに大物の貫禄。しかし、前川さんは、「何度歌ってもステージでは緊張する」と言います。

　「上がり症で、楽しめない自分がいます。本番前は毎回緊張して、終わったらほっとする。その繰り返し」 　緊張で眠れず辛いときも、ステージに立ち続けてきました。 　「確かに苦しいですが、どんなに慣れなくても、緊張しても、最近はこれでいいのだ、と思えてきました。精一杯歌って、お客さんに心から楽しんでもらう、それだけです」

■多くの素晴らしい出逢いに恵まれて今の自分がある

　前川さんの新アルバム『人恋しい休日の夜に』。シングルＣＤのＢ面を集めた楽曲集です。ベスト盤やコンサートでも聴ける機会の少ない隠れた名曲が揃います。

　おすすめの曲は？ の問いに、全部だよと笑いつつ「『南風通信』かな」と答えました。「海で亡くなった友人を想った歌だけど、あまり歌ったことのないテーマなので新鮮です。胸にジーンとくるのです」。また福山雅治さん提供の『雨を聴きながら』は、「これはカッコいい曲ですよ」と嬉しそうに話します。 　作詞・作曲には、作家の伊集院静さん、五木寛之さん、フォークの伊勢正三さんなどの名が並びます。

　「今までも多くの人に曲を提供していただきました。新しい曲を歌うことも、ステージに立つことも、全てが私にとっては挑戦でした。ですが、人との出逢いによって新たな自分を引き出してもらってきたことの方が多かったのだ、と今は思います。『ひまわり』では福山雅治さんに前川節はやめてください、と言われてね。何度も歌い直して大変でしたけど、自分の歌声の違う面を発見できました」 　いいタイミングでいい出逢いに恵まれたと、前川さんは振り返ります。萩本欽一さんには芝居の面白さと自分の中のコメディアンの部分を、坂本龍一さんといったジャンルの違うアーティストには歌謡曲以外の曲を歌うよさを、気付かせてもらったのだそう。「クール・ファイブも同じ。ジャズ出身の彼らのコーラスは洒落ていて、今聴いても新しいです。再結成して、やはり一人より楽しい」

　出逢いにより世界を広げ、変化を恐れず成長を続けてきた前川さん。その中でも、ゆるがない歌への思いを持ち続けてきました。 　「私の役割は作り手の代役として歌の世界を伝えること。自分の感情をのせることよりも、聴く人がどう感じるかを大事にしています。歌詞と皆さんの人生とを重ね合わせたり、心を癒したり、聴く人にこそ歌の世界を堪能してほしいのです」そんな徹底した歌との向き合い方も前川さんの魅力のひとつなのでしょう。

　聴く人の心にそっと寄り添う『人恋しい休日の夜に』。前川さんの歌の世界に包まれてみては如何でしょうか。

■プロフィール

歌手／前川 清

まえかわ・きよし　1948年8月19日生まれ。内山田洋とクール・ファイブのヴォーカルとして、1969年にデビュー。1987年よりソロ活動を開始。2006年クール・ファイブ再結成。歌に芝居に精力的に活躍している。

■インフォメーション

『人恋しい休日の夜に
Kiyoshi Maekawa B-side Collection』

発売中 定価2,500円（税別） 発売元：テイチクエンタテインメント　TECE-3253