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芸能人インタビュー
- 観客が僕にアドレナリンをくれる。最後まで役者でいるため毎日の仕事をやりきる 2013.08.05
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50年以上、テレビや映画で活躍し、役者として圧倒的な存在感を見せる平幹二朗さん。秋に80歳を迎える平さんがライフワークとするのが舞台。現在も年約3本に出演し、研鑽を重ねた演技は一瞬で観客を魅了する。秋に幕を開ける舞台「唐版 滝の白糸」では唐十郎戯曲へ初挑戦する。
■一生懸命でなければ明日はない。さまざまな役に挑む理由
「本当に人との出会いに恵まれた俳優生活です」とキャリアを振り返る平幹二朗さん。「俳優には自分に合った役を熟成させるタイプ、毎回違う役を好むタイプがいます。僕は後者。なぜオファーが来たのかという役でもやってみる。いろいろな役を演じるのは苦しみですが、自分の新しい一面を見つけられる苦しみ以上の楽しみがあります」 こうした役選びの姿勢は、生い立ちが影響している。広島で生まれ、父親が他界した後は母子生活となった。戦渦が近づくと疎開して親戚の家を転々とする日々。安らぎを感じることはなかったという。 「日本人が一番貧しい時代を生きてきました。そのせいか今も生活が安定していると、『これでよいのだろうか』と自分に問います。一生懸命取り組まなければ、明日を生きる活力を得られないという気持ちが強い。気が付けば不安定さに安定を覚え、つらい時こそ元気が出る性分になっていました(笑)」
■今秋に唐十郎作品に出演。80歳を前に踏み込む新しい世界
11月に80歳を迎える平さんが、またひとつ新しい扉を開こうとしている。長年、拒んできた唐十郎さんの戯曲に挑む決意を固めた。唐作品は芸術性が評価される一方、難解な台詞もあり、演じる役者に高い理解力と表現力を求められる。 「僕の信条は観客に言葉が聞こえ、それが心を揺り動かすストレートプレイです。でも唐作品は言葉ではなく、情熱やパワーのこもった芝居。恐ろしい世界にひきずり込まれそうで、ずっと怖かった」 過去にも蜷川さんから唐作品へのオファーがあったが見送った。なぜ今、出演を決めたのか。 「残り短い俳優人生、一度くらい怖い世界に踏み込みたいと思ったからです(笑)。滝の白糸は沢田(研二)さんが演じた初演(1975年)を見ましたが、今も不思議な魅力が頭に残っていました。難解な芝居が多い唐さんのなかでは、分かりやすい作品ですしね(笑)」 今秋幕を開ける期待の舞台「唐版 滝の白糸」の作は唐十郎さん、蜷川幸雄さんが演出を手がけ、平さんは謎の男・銀メガネを演じる。過去に3度舞台化され、大掛かりな舞台装置を駆使した「演劇スペクタクル」と称賛された。痛切な抒情的な台詞は、時代を超えて人の心に突き刺さる魅力を持つ。平さんは序盤から長台詞がつづき、物語の進行を手助けする役を担う。「唐さんの言葉の魔力を頼りに、言葉で唐戯曲の世界を飛んでみたい」と意気込む。 ライフワークと位置付ける舞台。大舞台を踏み、多くの役を演じつづけてきたことで感じる醍醐味がある。 「自分の中から表現が湧き出す瞬間が一番の醍醐味。3回目のリア王を演じたときですが、いくら稽古をしても手ごたえがなく、実感がないまま初日を迎えました。いざお客さんの姿が見えた瞬間、心と体が勝手に動き、自然に芝居ができました。キザな言い方をすれば無になれた。観客からアドレナリンをもらえたんでしょうね。役者として幸せを感じた瞬間でしたね。 いつ死んでもいいと思っていますが、最後まで役者でありたい。そのために心がけているのはその日の仕事をやりきること。老年の生き方とは先を見ず、毎日を精一杯生きることです」
■プロフィール
俳優/平幹二朗
ひら・みきじろう 1933年広島市出身。俳優座退団を機に浅利慶太演出の『ハムレット』に出演。その後、蜷川幸雄演出の作品に多数出演。主な作品に『王女メディア』『NINAGAWA マクベス』等があり、海外でも高く評価。自ら主催する幹の会でシェイクスピア作品上演をライフワークとする。
■インフォメーション
唐版 滝の白糸
作:唐十郎 演出:蜷川幸雄
出演:大空祐飛、窪田正孝、平幹二朗
期間:10月8日(火)~10月29日(火)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
料金:S席 9,500円 A席 7,500円 コクーンシート5,000円 ※全席指定・税込
【問】Bunkamura03-3477-3244(10:00~19:00)