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芸能人インタビュー
- ドラマのようにうまくいかないのが人生。だからこそ面白く、生きている意味がある 2012.09.18
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ドラマのようにうまくいかないのが人生。
だからこそ面白く、生きている意味がある
日本テレビ界を牽引し、脚本家の地位向上にも貢献した山田太一さん。
彼の作品には一貫して、人の弱さも愚かさも決して責めることなく、
温かく見守る眼差しが感じられる。そんな山田さんの記念すべき
連続ドラマデビュー作が、今年、初めてDVD化されることとなった。
■脚本家・山田太一を見出し、育ててくれた木下惠介監督
2009年放送の『ありふれた奇跡』を最後に、連続ドラマから降りた脚本家の山田太一さん。「僕ももういい年。連続ドラマの制作中に倒れたりしたら、皆さんに迷惑がかかりますから」と朗らかに笑う。
取材中、つねに笑顔を浮かべていた山田さん。しかしこちらが話し始めると一転、驚くほど真剣な表情になる。少し姿勢を低くし、全身を耳にして聞き入る姿が印象的だ。
言葉を生業とする“観察者”の本能を見た気がした。
「今、連ドラは若い人たちが中心の世界でしょう。その中で一年以上もかけて、僕が脚本を書いてもしょうがない(笑)。これからは芝居の一本や小説の一作、単発ドラマなど、目の前の仕事に集中して生きていこうと思っているんです。今も芝居を書いているんですよ」
山田さんは、日本のホームドラマの礎を築き上げたひとりだ。
'58年に松竹に入社。日本映画界を代表する名匠・木下惠介監督の助監督に。そして'65年松竹を退社、脚本家としての道を歩み始める。
ゆっくり、じっくり丁寧に魅せていく人間模様と、いきいきとした会話劇は、幅広いファン層を獲得した。
山田さんの才能を引き出したのは、他でもない木下監督だった。
テレビが普及し始めた'50年代後半。映画界はそれを蔑む傾向にあったが、実験精神旺盛な木下監督は、テレビならではのフットワークの軽さなどに着目し、いち早くテレビ界に進出。その後14年も続くことになる人気テレビドラマシリーズ【木下恵介劇場・木下恵介アワー・人間の歌シリーズ】をプロデュースした。
「僕がまだ駆け出しの頃です。木下監督が体を壊して入院されて、ドラマ『記念樹』の脚本をお手伝いしました。『オリジナルで書け』と、初めて任された脚本です。書いては病室へ行き、監督の前で台詞を音読し、『この台詞はいらないね』『ここにこの台詞入れようか』とその場で直してもらい…一度読み上げただけで、監督の頭の中にはすべての台詞が入っているんですよ。とっぷりと日が暮れた頃に病室を出ると、外にプロデューサーが待っていて、ギョッとしました(笑)。
この日々は、脚本家としての僕の原点。言葉で言い表せないほど多くのことを学ばせて頂きました」
その後、【木下恵介アワー】の『3人家族』('68~'69年)で、山田さんは初めて、一人でオリジナル脚本全26話を手掛けた。それはシリーズ歴代最高の視聴率を誇る大ヒットとなる。
「松竹を辞めたばかりで、子どももいましたし、とにかく無我夢中でした。それが多くの人に受け入れてもらえて、とてもほっとしましたね」■人生は「正解」「間違い」と二極化できるものではない
山田さんの描く“人間”は、私たちにとても近い存在だ。誰もが無意識のうちに抱えている思いを、山田さんは明確に表現し、観ている者に『気付かせて』しまう。それほどのリアリティを再現しながら、作品全体に、どことなくファンタジックな雰囲気も漂う。山田さんにしか創り出せない独特の世界観だ。
「僕のドラマは、『世の中とフィットしない人たち』を描いているとよく言われます。でも、現実も皆そうじゃないかなぁと思うんです。うまく合わせているように見えるだけで、本当は誰もが苦しみ、もがき、いろんなことを我慢して、傷だらけで生きている。
世の中に完璧や絶対がない限り、何をするにも、僕らはある程度のところで、妥協しているわけですよね。結婚にしても、『私にはこの人しかいない』なんてことは、本当は有り得ない。もしかしたら運命の相手は、タイあたりにいるのかもしれない(笑)。自由に選んでいるように見えて、実はごく狭い世界での選択です。間違っているかもしれないけれど、それが正しいと信じて、どこかで踏み切るしかないんです」
山田さんは目を細めた。穏やかな目尻のしわに、78年という人生の深みが感じられる。
「生きていくって、そういうふうに少し欺瞞で、でも、それが悪いことだとは思わないんですよ。脚本のように思い通りに進まないのが人生ですからね」■個人主義が進み過ぎている現代。今こそ必要な作品
山田さんの連続ドラマデビュー作でもある『3人家族』の他、脚本を手掛けた『二人の世界』『記念樹』が、木下惠介監督生誕100年を迎える今年、初めてDVD化されることとなった。
「その頃はテレビドラマを後世に残すことが難しい時代だったので、いつでも気軽に観られるようになったのは嬉しいです」と、顔をほころばせる。
「当時に比べ、ずいぶん時代が変わりましたね。都会では、人と人との温かくもおせっかいな関係が、失われつつあります。皆が皆、他者からの干渉を嫌い、一人で生きていこうとしている。行き過ぎた個人主義は、少し野蛮なんじゃないでしょうか。ある人が、『文明は共存する意志だ』と言いましたが、この言葉の意味を、改めて考える時期なのかもしれません」
山田さんの描くドラマは、忘れかけていた大切なことを思い出させてくれる。
「連ドラですから、長くて大変だと思います。観てくださる方は、あまり無理しないでくださいね」と語り、笑いを誘った。
若かりし名優たちによる、複雑で面倒で、そして温かい人間ドラマが、数十年ぶりにお茶の間に甦る。脚本家/山田太一
やまだ・たいち 1934年東京生まれ。テレビドラマ『岸辺のアルバム』『想い出づくり』『ふぞろいの林檎たち』シリーズ『本当と嘘とテキーラ』『ありふれた奇跡』等多数の名作を手掛ける。映画『少年時代』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。小説家や劇作家としても活躍する。●インフォメーション
木下惠介生誕100年記念
「木下恵介劇場」「木下恵介アワー」4作品初DVD―BOX化!!
脚本/山田太一
監督/木下惠介、川頭義郎 他
出演/竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦 他
■10月26日(金)リリース 19,950円(込)『記念樹』DVD-BOX
原作・制作/木下惠介
脚本/木下惠介、山田太一
出演/馬淵晴子、高杉早苗 他
■9月26日(水)リリース 33,600円(込)『二人の世界』DVD-BOX
好評発売中!
19,950円(込)『おやじ太鼓』DVD-BOX
好評発売中!
29,400円(込)発売元・販売元:松竹(株)映像商品部 ・消欒・芦饉辧震擴七嘆陬廛蹈瀬・轡腑�