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真直ぐ観客と向き合うことで、役者の成長は続くのだと思います。 2012.08.06
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真直ぐ観客と向き合うことで、

役者の成長は続くのだと思います。


「日々の一つひとつを大事にして生きることは、年齢を重ねて

初めてできることだと思うのです」女形を究めた役者・坂東玉三郎さんはこう話す。

そんな玉三郎さんに、自身の芸と粋を注ぎ込んだ渾身の舞台

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』についてお話いただいた。

 

■有吉佐和子の傑作戯曲に坂東玉三郎が再び挑む

 

 「何でも聞いてくださいね」柔らかな眼差しでそう切り出した、役者・坂東玉三郎さん。立女形として歌舞伎界の至宝とまで称される。女性の持つ心情をいきいきと感じさせる美しく艶やかな口跡、しなやかさと気品ある仕種、圧倒的な存在感…。舞台に登場するだけで観客はその「美」に息をのむ。劇場は玉三郎さんの世界へと染められていく。それが五代目・坂東玉三郎。その芸術性は国外でも高く評価され、名声は世界にとどろく。

 そんな玉三郎さん、歌舞伎以外でも、和太鼓集団『鼓童』の芸術監督やさまざまな舞台などにも積極的に取り組んでいる。中でも今回の舞台『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、玉三郎さんにとっても大切な作品となった。
 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、作家・有吉佐和子さんによる戯曲。これまで何度も上演されてきた、有吉作品の中でも最高傑作の呼び声が高い。玉三郎さんが演じるのはお園という芸者。かつて名女優・杉村春子さんの当たり役として長く演じられて来た役。その大役を受け継いだのが玉三郎さん。そうして20年以上に渡って玉三郎さんはお園を演じ続け、2012年の今年10回目の公演を迎える。一つの舞台を長年演じ続けることで、どんな変化があるのだろうか。
 「長いと言っても、歌舞伎の世界では一つの作品を、再演どころか何十回も上演しますから(笑)。私が20歳の頃演じた作品をまだやることもあります。この作品も公演年数だけ聞くと長く感じられますが、私たちの世界ではそんなに珍しいことではないんですよ」
 玉三郎さんはそう謙遜するが、やはり上演を重ねることは簡単ではない。役者としての日々の研鑽は想像に難くない。それでも玉三郎さんは公演を重ねるたいへんさの影すらみせない。それどころか「年齢的にはかなり若い時から演じてきましたから、今になってやっとお園と同じような年齢になれて、随分楽になりましたよ」と微笑んだ。

 

 

■おかしみや儚さ漂う芸者の生きざまが胸を打つ

 

 玉三郎さんの『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、現代演劇から歌舞伎へ、そこからシネマ歌舞伎としてスクリーンにまで広がった。その全てに玉三郎さんの作品への思いが反映されている。それはきっと今回の舞台でも、お園を演じる上だけでなく、舞台そのものの深化につながっているに違いない。
 「歌舞伎や映像にしたことで、さらに物語への理解が広がったかどうかは分かりません。けれど歌舞伎でやったことは大きかったでしょうね。やはり役って経験ですから、一つの方向からだけでなく、色々な角度から演じてみて発見することはたくさんあります」
 物語の舞台は幕末の開港間もない横浜の遊廓「岩亀楼」。アメリカ人のイルウスに気に入られた花魁の亀遊(檀れい)は、思いを寄せる相手との恋が叶わないと知り自害してしまう。この話は尊王攘夷の嵐が吹き荒れる時代の中で美化され、いつしか亀遊は攘夷女郎のヒロインに祭り上げられていく。そして亀遊をよく知るお園は、語部として、三味線片手に彼女の逸話をしたたかに語る。
 粋で酒好きだが、情に厚い芸者を、玉三郎さんが儚さとおかしみ、孤独や悲哀の中に見事に演じ切る。お園が周囲に乗せられて次第にエスカレートしていく様子などは、コメディとしての要素もあり、思わず笑ってしまう。しかし、時代の波に翻弄されながらも必死に生きるお園や亀遊の姿を見ると、胸が締め付けられる。玉三郎さんも、「全体を通してみると悲劇的でしょうね。笑える悲劇ということでしょうか。悲劇と喜劇が非常によく噛み合っている物語です」と力を込めた。  

 

 

■劇場全体に広がる坂東玉三郎の「美」の世界

 

 作品自体の魅力もさることながら、やはり注目は坂東玉三郎さん演じるお園。玉三郎さんはそんなお園を「器用」だと言う。
 「何しろ幕末の大変な時代をくぐり抜けていくのですから。日本全体が進むべき方向を見失った時代。その中で自分の商売は成り立たせてしっかりと生きて行く。確かに振り回されてたり、自分の本心が見えなかったりするような部分はあります。けれどお園は自分の根っこというものを持っている女性なんです」
 こうした思いの全てが、お園という女性を作り上げて行く。女形として、ほんの少しのほころびも妥協しない玉三郎さんだけに、彼女の持つ「美」へのこだわりも大きいのでは?
 「お園はね、それほど美しい人ではないんです。ですからメイクも今回はそれほどしないんです。美しさを表現しない、なるべく自分の地に近い感じにしています。もちろん二幕からの芸者としてのお化粧はしていますが、そこでも自分の素顔の感じっていうのを大事にしています」
 さらに今回玉三郎さんの「美」は、お園だけにとどまらず、舞台装置や照明、衣裳に至るまで細部に渡り反映される。これには玉三郎さんの強い思いがある。
 「舞台装置や照明には特にこだわりました。舞台となる遊廓は、横浜の海が見える場所です。そこで遊廓から出ることもできない女性たちが海を見て、はるかに広がる世界への憧れを抱く…。そんな海を、お客様に想像していただけなければいけないでしょう。また、遊廓に夜とともにお客さんが入ってくるという時間の移り変わりを表現する。遊廓で日が暮れて夜が訪れるというのは、その場所にとって非常に大きな意味を持つのだと思います。雨も本当の水を降らせているんですよ。
 それに赤坂ACTシアターは、とても広い空間をもっています。この空間を最大限にいかし、お客様との距離を大切にしながら演じたいですね。そうすればきっとこの戯曲をもっと身近に感じていただけると思います」
 最後に玉三郎さんは「同じ作品に長く携わっていても、共演者が変われば作品も当然変化します。これまでこの作品の悲劇的な部分を見ていましたが、今回、新たな共演者を迎え、重いテーマの中に口当たりのよい、とても朗らかな部分も見えてきました。彼らとまっすぐに向き合って会話しながら、私自身も成長する。そうすればこの作品もまた新しくなるのだと思います」と締めくくった。女形を究めた役者の、なおも進化を望む言葉が心に響いた。 
 作品誕生から40年。玉三郎さんにとっては記念すべき10回目の上演に、豪華なキャストが顔を揃えた。玉三郎さんの美の粋がつまった舞台『ふるあめりかに袖はぬらさじ』。今秋、必見の舞台の幕が開く。

 

 

 

歌舞伎役者/坂東玉三郎
1956年十四世守田勘弥の部屋子となる。翌年坂東喜の字を名乗り、「寺子屋」 で初舞台。以後、歌舞伎だけでなく、舞踊や現代劇、さらに演出家や映像の世界でも活躍。2012年和太鼓集団『鼓童』の芸術監督に就任。2009年第57回菊池寛賞、2011年第27回京都賞思想・芸術部門ほか受賞歴多数。

 

 

 

●インフォメーション

坂東玉三郎主演
「ふるあめりかに袖はぬらさじ」

作/有吉佐和子  演出/齋藤雅文
出演/坂東玉三郎 檀れい 松田悟志  他  
日程/9月28日(金)~10月21日(日)
会場/赤坂ACTシアター
料金/S席:13,000円、A席:9,000円(全席指定・税込)
※未就学児のご入場はお断りいたします。
■予約・お問合せ/チケットスペース
TEL.03-3234-9999


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