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芸能人インタビュー
- マリア+菩薩+エロス=倍賞美津子。その公式が当てはまる女性になりたい! 2009.04.27
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日本を代表する名女優・倍賞美津子さん。その特別な存在感で、どんな空間もあっという間に『倍賞色』に染め上げてしまいます。観る者はもちろん、映画監督や共演者までをも虜にするその魅力は、他でもない倍賞さん自身の、『人間力』にありました。
つねに全力疾走! しなやかな強さを持つ女性
その華やかで贅沢な存在に、文字通り「目を奪われる」。スクリーンの中でひときわ明るく輝く女性・倍賞美津子さん。その確かな演技力に巨匠たちが惚れ込み、これまで数多くの名作に出演してきました。出演作は映画だけでも、70を超えます。女優として確固たるキャリアを持つ倍賞さんですが、「女優以外の部分も、めいっぱい生きたいの」とチャーミングに笑います。
「どんな役をやったって、結局はその人自身が出てくるものでしょ?だからこそ、あたしは倍賞美津子という『個人』も大切にしたい。誰かを演じた後に、ちゃんと『自分』に戻ってこられる人って、役者として最高だと思うの。なかなか難しいんですけどね(笑)」『めいっぱい』。その言葉が、倍賞さんの人柄を如実に物語っています。
「結婚して出産したら女優生命は終わり」という、芸能界の当時の風潮をものともせず、倍賞さんは24歳という若さで結婚。数年後に長女を出産し、子育てに専念することに。常識や世間体に捕らわれず、自分の気持ちに正直に生きることこそが、倍賞さんの信念です。
「そんな大袈裟な(笑)。一生懸命だっただけよ。女優業も、子育ても、恋愛も。とことんやってみないと、わからないことってあるじゃない?そうやっていつも全速力で走ってきたから、人の目には『強い女』って映るのかもしれないわね。そんなに強くないんだけどなぁ(笑)。よく、悔いを残さないように…、って言うでしょ?でも、どうやったって悔いは残るんです。どんな選択をして、どんなふうに生きても。だからこそ、先のことは考えない。自分の持てる力をすべて出し切って、『今』を精一杯生きたいの」
こんな時代だからこそ、『優しさ』を思い出して…
今年で63歳になるという倍賞さんは、驚くほど美しく、艶めいています。それと同時に、少女のような可愛らしさに満ちています。
「あたしね、菩薩+マリア+エロス=倍賞美津子、っていう女性を目指してるの。菩薩やマリアは、『慈愛』の象徴よね。それは母性であったり、女性特有のものだと思うの。『女性らしさ』とか、そういう意味じゃなくてね。彼女たちのように、誰に対しても包み込むような優しさを持っていたい。あたしの場合、そこにエロスが加わるの。これ、ちゃんと書いといてね!(笑)」
エロスは、ギリシア神話に登場する、恋心と性愛を司る神です。菩薩とマリア、そしてエロス。そのキーワードこそが、倍賞さんの「天真爛漫な色気」に繋がっているのかもしれません。
「今の世の中、いろんな面で殺伐としてるでしょう。でも、こんな時代だからこそ、人間としての優しさを忘れずにいたいと思うんです。あたしは、誰かに『いい人』と思われるんじゃなくて、心から優しい人でありたい。心の声に耳を傾けて、素直に、シンプルに、気負わずに。誰もがそういうふうに生きられたら、もっと素敵な世の中になるんじゃないかしら」
太陽のような輝きが、周囲を明るく照らし出す
4月公開の主演映画『ニセ札』では、倍賞さんはご自身と同じように、自分の信念に生きた女性教師を演じます。
時代は1945年。敗戦した日本はGHQの指導により、急激な民主化を強いられました。緑の山と清流に抱かれた小さな村で、つつましい生活を送る人々。倍賞さん扮する佐田かげ子が教頭を勤める小学校でも、戦争中に使っていた軍国主義の書物をすべて処分したため、児童が読める本がほとんどありません。そんなある日、かげ子は元教え子に誘われ、ニセ札作りの計画に加担することに。すべては、貧しい村を救うため。ニセ札作りは次第に、村全体を巻き込んだ一大事業へと発展していく…。
「初めて脚本を読んだとき、とても面白いと思ったの。戦後、これまでの価値観がひっくり返って、学校の教育方針も一気に変わるわけよね。自分が今まで教えてきたことは何だったんだろうとか、自分には何ができるだろうとか、いろんな思いがあったと思うんです。もしかしたら、戦争で教え子を亡くしているかもしれない。そういう時代の狭間で、かげ子の中には怒りや鬱憤が溜まっていた。村ぐるみでニセ札作りなんて、国家に対する反逆よね? でも、村人たちにとって、それは希望の光だった。かげ子たちは、楽しかったと思うのよ」
戦後最大のニセ札事件と言われる、昭和20年代の混乱期に実際に起きた事件が題材となった本作。メガホンをとるのは、これが初の長編映画監督になるという木村祐一さん。ヒロインはぜひ倍賞さんで、と木村監督から熱烈なラブコールを受けたのだそう。
倍賞さんの人柄を伺い知ることのできる、印象的なエピソードがあります。本作で映画デビューを果たした女優・西方凌さんが、どうしても役になりきれず、バラバラになりそうな気持ちで台詞と動きを練習していたとき、スッと倍賞さんが隣に立ち、台詞を合わせてくれたのだそうです。嬉しくて涙が出た、と西方さんは言います。
「何だか立派そうに聞こえるけど…。そんな余裕がないときもありますよ(笑)。
どんな人でも、やっぱり素敵であってほしいじゃない。あたしも昔、誰かにそうやって助けられて、勇気付けられていたのよね。人間って、ひとりじゃ生きていけないもの」プロフィール
女優/倍賞 美津子
ばいしょう・みつこ 1946年茨城県生まれ。79年『復讐するは我にあり』でブルーリボン助演女優賞を受賞。今村昌平、黒澤明ら名監督が手掛けた作品に数多く出演。『恋文』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ゴールデンアロー映画賞、『東京夜曲』『うなぎ』で助演女優賞など、受賞歴多数。■映画情報
『ニセ札』
監督/木村祐一 出演/倍賞美津子、青木崇高、板倉俊之、段田安則他 テアトル新宿、シネカノン有楽町2丁目他 公開中
© 2009『ニセ札』製作委員会